すぐ目の前にいた男性は振り返って言った。
「きれいね!」

 いつものシーサイドコースをジョギングしていた。
もう慣れてきたけれど、最初の2㎞は体が重い。足が動かない。
それでもノロノロと続けていると、少しだけスピードが上がり、気持ちよくなってくる。
だからと言って、調子にのって楽しくコースを進み続けると、また疲労を感じるので、 
「もう少し行ったら、アイスクリームを食べようかな」と考えていたときだった。
 
ちょうど太陽が沈む時間。
見ると、海の上に浮かぶ雲が赤く染まっている。
これは気になる。

予定のコースを外れて、 雲を追いかけてみる。
岸壁の壁に上がりたいが、登れそうな ところがない。
と、向こうから釣り竿を持った人が岸壁の上を歩いてやってきた。
どこかから登れるにちがいない。

あ、ここだ。
ハシゴをよじ登る。
写真を撮り始めると、 すぐ前で釣りをしていた男性は振り返って言った。
「きれいね!」

見ると、反対の西側の空も美しく輝いている。
迷わず西側にも写真を撮りに行った。

「ああ、きれいだ」と感じる気持ちは教わることはできない。
 誰かに植え付けてもらうものでもない。
きれいだと感じるものに出会っただけでも嬉しくなるのに、
同じように感じている人がいることからは、嬉しさを超えて高揚感ともいえるものが湧き上がってきているのがわかる。

吸い寄せられるように出会った美しい空と、その美しさを共有して湧き上がってきたエネルギーは、この後予定を大幅に超えて、さらに3㎞わたしを走らせた。

 
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